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代理手術

「え。」

「かなり危うい状態です。このままだともって数か月か・・・」

 医師の宣告は時に残酷。

 病気の完治も・・・悪化も。

 真実を伝えなくてはいけないのが医師の役目。

「そんな・・・お姉ちゃんは・・・お姉ちゃんは死ぬんですか!!」

 私につかみかかるように近づいてきたのは中学生にもなる弟君。

 白い患者服の彼の姉は、目を見開き現実を受け止めきれない顔をしている。

 カルテを見てみたが、両親にも見放され緊急搬送で送られてきたらしい。

「・・・準備ができ次第緊急手術に入る。だが・・・覚悟はしておいてくれ」

「覚・・・悟?」

「栄養失調により壊疽が出ているところがある」

「だからなんなんですか!?」

 必死に食らいつく弟と、静かに答えてくれる姉。

 正反対の二人に真実を伝える私も、辛いものがある。

「壊疽を除去する必要があって・・・だね」

「・・・はい」

「全身麻酔で手術を行うか・・・部分麻酔で行うかに分かれる」」

「その二つに何か違いはあるんですか?!」

「全身麻酔だと痛みなく手術ができるが・・・かなりハイリスクになる」

「・・・一度完全に眠ってしまうから・・・そのまま・・・」

「そうですね。逆に部分麻酔は意識が残る分痛みが強まる」

「生死にかけるか、痛みを耐え抜くか?!」

「どちらにせよ手術はすぐに行う。二人に決断は委ねるよ」

 カルテと手術データの整理をしつつ、彼らの決断を待つ。

 手術は簡単なものだが、精神的に弱まった彼女に全身麻酔は危険すぎるのは確か。

「どうするんだよ!お姉ちゃん!」

「うぅ・・・ごめんね? お姉ちゃんのせいでこんな・・・」

「いいんだ。それより大丈夫なの?」

「ええ、なんとか・・・でもどうしましょう?」

「いきなり倒れた時はびっくりしたんだからな!?」

「手術・・・怖いわ・・・私、死にたくない・・・」

「全身麻酔か部分麻酔。どっちに・・・するんだ?」

 ちらりと顔をのぞいてみたがやはり二人とも決めあぐねている様子。

「いやよ・・・痛いのも死ぬのも・・・いやよぉっ!!」

「お姉ちゃんっ!!」

 突如吹っ切れたように彼女が泣き崩れ始めた。

「なんで私が・・・!!弟も守らないといけないのに!!」

「ちょっと!暴れないで!」

「落ち着いてよ!お姉ちゃん!!」

「いやよぉっ!!いやああああっ!!死ぬのも痛いのもいやよぉ!!!」

「くぅっ!なんで・・・お姉ちゃんが!俺が代わって手術を受けてやりたい・・・!!」

 ん・・・? 代わって?

 そうだ。確かあの方法もあったんだよな。

「ちょっと二人とも・・・少し相談があるんだ」

「なに・・・?」

「まさかもう手遅れなのか!?」

「いや、新しい医療技術があるんだよ」

「新しい・・・」

「医療技術?」

「ああ、『代理手術』というものだ」

「それはいったい・・・?」

「最近手術がハイテクノロジー化し彼女のように恐怖を感じる人が多くなってきたんだ」

「・・・ぅ」

「お姉ちゃんをバカにするのか!!」

「違う。だから医者の身としても怖い思いはさせたくない」

「だからなんだよ!」

「そこで新技術として、怖がる患者の魂を一度身体の外へ保管し・・・」

「殺すのか!?」

「違うよ、一時的に外へ出し手術が終わったらちゃんと元に戻すさ」

「それはそれで・・・怖い・・・」

「今のところ自己前例は上がっていないから安全率は高い」

「安全・・・なのですか?」

「保証は今のところ一番できる方法かと」

「あれか? 幽体離脱ってやつ?」

「それに近いですね。そして体が仮死状態の間に手術を行ってしまいます」

「は・・・はぁ・・・」

「なにそれすっげえ!!」

「・・・痛みと麻酔を通り越しちゃってる・・・」

「どうです? まだ認証されて間もない最新技術ですが」

「・・・そ・・・それは・・・痛くないんですか?」

「はい。幽体離脱をすっとするだけですので」

「お姉ちゃんずるいぞ! 俺もなんかそれやってみたいし!」

「わ・・・わかったわよ」

「やったー!!」

 先ほどのテンションとは別人のように、

 アトラクションを楽しもうとしている姉弟のようだ・・・。

 姉の容体と事態は変わらないが・・・、

 少しでも笑顔になってくれているならそれでうれしい。

「ならその手段でいこう、準備はいいな?」

「・・・お・・・お願いします・・・」

「なあ! どうやるんだ? どうやるんだ?!」

「それは手術の時に説明しますよ」

「・・・緊張します」
 

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