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おばけが私のもとを去ったのは、それからすぐのことだった。私の生活は、すっかり整頓されつくしていた。
おばけを喪った私は、おばけがしていたようにコーヒーを淹れて、食パンをトーストにした。
支度をして、外に出て、仕事をして帰った。
冷蔵庫に、サイダーがひとつあったので、それを開けて、一息で飲んだ。
飲んだサイダーはそのまま私の中を巡って、やがて涙腺からじわりじわりと溢れた。
自分の左手首を、私は撫でる。すこしざらりとした皮膚が、私を慰めていく。
「ねえ」
私は、左手首に語り掛ける。
「ねえ、私は、どうすればいいと思う」
答えは来なかった。けれど、私には、どういう答えがそこにあるのか、既に知っていた。
「どうすればよかったと思う?」
やはり、答えはなかった。
「ほんとに、ずるいよね。君は」
私の躰で、好き勝手やったくせに。私を、さんざん待たせる気だなんて、ほんとうに、ずるいよね。
最後は言葉にしないまま、私は空き缶を洗った。水をきって、ゴミ箱に投げ入れて、ベッドに腰をおとした。
視界の隅に、色あせたテディベアが一匹、脱力した様子で頸をもたげている。
「もっときれいなやつ、選べよ」
私は悪態をついて、テディベアを座りなおさせる。それからそいつの頭にチョップをして、眠るための準備をした。
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