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おばけは、男のおばけのようだった。オンナってめんどくさいな、とか、ブラってどうやってつけるんだ、とか、よくぼやいているので、多分、そうなんだろう。
見ず知らずの男の視線が私の生活に喰い込むのはさぞ気色の悪いことだろうと思ったが、慣れてしまうとそうでもなかった。
おばけは、私よりもずっと、うまく私をこなしていた。仕事も、生活も、歩き方も、服の畳み方も、私よりずっと、そつがないのだった。
そういうものだから、私はおばけが男のおばけだということを、時折、忘れた。
もっと言うなら、私は、私のもろもろを、どんどん忘れていた。今はもう、ほとんど、思い出せない。
きっと、こうしてずっと眠っているからなのだろう。
眠っているから、きっと眠る以外の何物も要らなくなって、おばけが男だろうと、私がなんであろうと、来し方も、行く末も、滲んでいなくなっているのだろう。
そう思うと、とても、気楽だ。私はもう何もしなくていい。ただ、眠るだけでいい。
私はおばけを眺める。彼のかわりに、おばけをやる。何もしないおばけ。雨上がりの、もやのようなもの。
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