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かちりかちりと音がして、目を覚ました。私は電車に乗っていた。おばけは、私の躰で弁当を食べていた。お新香がこりこりいった。
何をしてるんだろう。どこへ行くつもりなんだろう。今日はお休みなんだろうか。
おばけは、とても寂しそうにしている。何か、もの思うようにしている。いつか、恋を喪ったときに、私もああいう顔をした気がする。
おばけも、そうなんだろうか。私の眠っているあいだに、そんな経験をしてしまったんだろうか。
でも、そうすると、彼はどちらに恋をしたんだろう。おばけは、今どちらでもなかったから、きっと難儀しただろう。
訊いてみたい、と思う。おばけと、話してみたい、と思う。でも私は、どうやって話しかけていいのかわからないでいた。声の出し方も、忘れてしまった。
ねえ、あなたは、何、考えてるの。
なんで、私を、肩代わりしてるの。
なんで、そんなに、寂しそうにしてるの。
もどかしさが、海のかたちをして、私に注ぎ込まれていく。呼吸がやりづらくなる。どんよりとまどろんでいく。眠ってしまいたくないのに、おばけになって、はじめてそう思っているのに、私は眠たくなっていく。
あーあ、と思う。思いながら、また私は眠っていく。ぐっすりと、深々と、眠っていく。
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