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気づくと、おばけは階段を登っていた。どうやら小高い丘の上にいるようだった。
背の低い町並みが、その丘の上から一望できた。
知らない町並み。でも、なんだか懐かしい町並み。きっとこれは、おばけの町並みなんだと、彼の町並みなんだと、思った。
階段を登りきると、そこは展望台だった。空がすっきりと晴れていて、山の向こうさえ見えそうだった。
おばけは、手すりにもたれかかって、じっと風景を眺めていた。
そしてそのまま、おばけは何ごとか、話しだした。
「俺は。俺はね。おまえのことが好きなんだよ。好きで、たまらないんだ。だからさ、ずっと寝てたいとか、死にたいとか、全部忘れたいとか、どうでもいいとか、やめてくれよ。俺、悲しくなっちゃうからさ。だから……」
おばけがそこまで話したところで、私の意思とは関係なく、瞼がぐぐぐと重くなる。
眠りがやってくる直前、おばけの表情を、私は見た。
悲しがるみたいな、恥ずかしがるみたいな、表情。
そんな顔しないで、と私は思う。そんな顔をされたら、私は、私だって。
私は、気持ちをかたちにしようとした。けれど、それらがなにものかとして形どる前に、私の意識は、眠りの海に、どぼん、と潜り込んでしまった。
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