目を開ける。私は、洗面台の前にいる。右手には剃刀があり、左手には傷跡があった。鏡には、おばけみたいにひどい顔の女が写っている。 「……ずるい」 鏡を眺めたまま、私はひとりごちた。 きみはずるい。ほんとにずるい。きみがそうなったんだから、私だってそうなりたいのに。 私は喚くように泣いた。わんわん泣いた。泣き出したら止まらなくなって、どうにも動けなくなった。やがて洗面所は涙で溢れて、私は全身しょっぱくなって、なめくじみたいにしぼんで、シルエットをうしなって、砂の像のように、跡形もなく消えていった。