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君を憶う

「今日も楽しかったね、りっくん」
「僕も楽しかったよ、園香」
 その日は遊園地デートの帰りで、少し暗くなり始めた夕方頃のことだった。僕は園香を家に送り届ける途中だった。付き合い始めて1年ちょっとだが、僕たちはそのときも相思相愛だった。
 少し狭い道路を歩いていると、交差点に差し掛かった。完全に暗くなる前に帰ろうと少し気が急いでいた僕は、その交差点を進んでいたときに身体に強い衝撃を覚えた。
「りっくん!」
 一時停止をしなかった車が飛び出してきていた。近くにいたはずの園香の声が遠くに聞こえた。

(……あれ? 僕はいったい……?)
 目を覚ました僕はあたりを見回すと宙に浮いていた。
(どうなってるんだ? ん……? 声が出ないぞ)
 自分の身体を確認すると薄く透けていた。もしかしてこれって……。下を見下ろすと車に轢かれて倒れている少年がいた。僕だ。
「ねぇ、りっくん!? りっくん!!」
 園香が僕に近付いて、僕の名前を呼びかけていた。
(園香!)
 僕は叫んだものの、声にはならなかった。

 やがて通報を受けた救急車が到着し、僕の身体が搬送された。
 病院に運び込まれた自分の身体を、僕はずっとそばでうかがっていたが、どうやら僕は死んでしまったようだ。
(そんな……)
 16歳で死んでしまった。そのこと自体ももちろん悲しい。だが、それを上回って悲しいことがある。
「そんな……。りっくん……」
 病院の廊下で僕の死亡宣告を受けた園香がショックを受けていた。僕は園香を残して死んでしまったのだ。

 それからの園香はふさぎ込みがちになった。元気だった頃の園香の面影はなく、ずっと暗い顔で日常生活を送っていた。しばらくは学校に通っていたものの、次第に登校しなくなり、自室に引きこもるようになった。
 そして僕はというと、幽霊となって園香のそばにいた。園香を残して死んでしまったという未練のせいかわからないが、死んでも精神が消滅することなく、この世に残っていた。
(園香……)
 どんどん元気がなくなっていく園香の姿を見るのはつらかった。園香に触れようとしても僕の手は園香をすり抜けてしまう。幽霊なのだから当然だ。

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