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行き止まりの景色

「最初から何かがおかしいとは思ってた。けど、直感したのは最後……あの死体のビジョンを見た時。あんたも見たんでしょ? そう、境内に倒れてるあれ。
 おかしいじゃない。あれがあんたの死体だとしたら、あの光景は誰が見たのよ?
 あれは殺した奴にしか見ることができない景色だわ。だとしたらそう、あんたが殺したんだとしか思えない。
 そう思って振り返れば、何もかもおかしかった。
 そうよ、そもそも、報道された事件では誰も死んでいないんだもの。
 背後から刺された被害者は重傷を負ったけど生き延びた――あれは殺人事件ではなく傷害事件だった。お店で話を聞いたとき、てっきりそれから死んだんだとばかり思っていたけど、違ったのね。
 それじゃあ、あの老夫婦が言っていた「殺された」っていうのは何だったのか? そうよ、それがおかしい。そこが違和感だった。旅館の息子が殺された――これは、雛倉隆真のことじゃなかった。
 事件はふたつあったのね。
 旅館の息子が神社で殺された――殺人事件がひとつ。
 雛倉隆真が自宅の近くで刺された――傷害事件がひとつ。
 私たちは、ふたつの事件をごっちゃに考えていたんだわ。
 村の人は「鬼が帰ってきてる」って言ってた。つまり、今起こっている事件は「帰ってきた鬼」の仕業ってことだわ。じゃあ鬼って誰? 璃々さんは鬼の伝承はないって言ってた。実在した人物なのよ。
 それが最初の殺人事件の犯人……「帰って」来たってことは、一度どこかに「行ってしまった」っていうことよね。どこに行ったの? 今はどこにいるの?
 それももうわかる。だってレイ――この犯人はあんたなんだもの。
 死んだんだわ。
 殺人事件を起こした犯人は死んだ……たぶん、自殺したんでしょう?
 この光景――私たちが追いかけてきた最初の追憶。この、高台からの景色。私はずっと、これに断絶を感じてきた。自分に落胆して、現状に焦燥して、罪に後悔して、未来に絶望してる。そういう行き止まりの感情を、この景色に見てきた。
 ねえ、これが、レイの……最後に見た景色だったんでしょう?
 この鳥居で首を吊った。死体の上で――あなたも死んだ。
 だから「鬼が帰ってきた」なんていう話になったのよ。
 一度死んで、鬼になって戻ってきて、また事件を起こしてる。そういうことだったんだわ。
 お蕎麦屋のご主人は言ってた。
「ああいうのはすぐにいなくなるって、わかってるだろう」
 ……ってね。つまり一度いなくなったやつがいるってことだわ。それに対しておばあさんはこう答えた。
「いなくはならないでしょう。捕まるはずもないし」
 ……それはそうだわ。犯人が一度死んで蘇った鬼ならば、改めて死ぬはずもないし、人間に捕まえられる道理もない。
 ……ごめんね、レイ。これが私の結論。前にも後ろにも進めなくなるような結末だけど、言わなくちゃいけないって思ったんだ。
 だってレイ。あんたにこれを言えるのは、もう私だけなんだもの」

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